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大阪大学先導的学際研究機構超次元ライフイメージング研究部門

RESEARCH SUBJECTS

研究内容

1. トランススケールイメージング装置AMATERASの開発

当研究部門での研究の根幹となるトランススケールイメージング装置AMATERASの一号機(AMATERAS1.0)を開発しました[1]。生物顕微鏡のレンズ、カメラを使わずに、マシンビジョン用の超多画素カメラとテレセントリックマクロレンズを用いて蛍光イメージング装置を構築して、これまでにない大視野での細胞イメージング技術を確立しました。14.6mm x 10.1mmの広い視野の中で個々の細胞の動態・機能を蛍光イメージングにより観察することができます。細胞分解能できる光イメージング装置しては、世界最大クラスの視野を誇ります。この装置により、10~100万個の細胞を同時に観察することが出来ます(図1a)。マウスの脳の切片のイメージングでは、脳全体の個々の細胞を同時に観察できることを示しました(図1b)。細胞状態の多様性・非均一性の統計解析など、生命システムの仕組みの理解に繋がる研究への応用を進めています。


1:細胞観察の例。(a)マウス上皮細胞の蛍光像。ワンショットの撮像で23万細胞を同時観察した(上、pre-confluent)。さらに、1.5日後には細胞が増殖して、100万を超える個数(119万)の細胞を同時に観察できた(post-confluent)。画像解析により細胞周期の分布の解析を実現した(右下)。(b)マウス脳切片の蛍光像。ワンショットの撮像で脳全体の中の個々の細胞を観察した。

2. AMATERASの応用:細胞性粘菌の空間パターン形成におけるリーダー細胞の検出

徳島大学の堀川一樹教授(当研究部門招聘教授)研究室との共同で,社会性アメーバ,細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)(以下,粘菌)における空間パターン形成をAMATERASによって観察し、パターン形成のメカニズムおよびリーダー細胞の検出を試みました[1,2] 。この細胞は,栄養が枯渇すると細胞が集合してナメクジのような多細胞体を形成する性質があります。集合過程では細胞内で生成したcAMP分子を細胞外に放出し,これをリレーしていくことで細胞の集合を促すことが知られています。cAMPインジケータとして2種類の蛍光タンパク質(Flamindo2, mRFP)の複合体を用い,それらの蛍光強度比(mRFP/Flamindo2)がcAMP濃度に依存することを利用して,細胞内cAMP濃度の空間分布を可視化しました(図2A)。視野全域で23万以上の細胞が観測され,初期(図2B上)には一様な空間分布となっていたのと比べ,その2.5時間後には螺旋状の波が伝搬し(図2B中),最終的には多細胞体が構築されている様子(図2B下)について,空間パターン全体の様相と個々の細胞の動態を同時に観察できました。とくに螺旋状の波の発生機構に着目し,細胞粒度で画像解析することで,螺旋波発生を引き起こす「リーダー細胞」と呼ぶべきマイノリティ細胞を発見し,リーダーがどのような機構で螺旋波を生み出すに至るかを明らかにしました。リーダーとして振る舞う細胞は10万細胞あたり130個程度の割合(0.13%)で存在することがわかりました[2]。


2:社会性アメーバ細胞性粘菌(Dictyosterium Discoideum)の観察。(A)cAMP可視化のための蛍光タンパクセンサー。(B)2波長タイムラプス計測の結果。 左:視野全域の空間パターン像、右:局所領域の個々の細胞の動態。

3. AMATERAS-2の開発と三次元トランススケールイメージングの実現

AMATERAS1.0のおよそ1.5cm x 1 cmの大視野を維持したまま、組織や胚などの3次元試料を観察するための技術を開発しました[3]。倍率2倍NA0.25の巨大なレンズ系を構築し、ピンホールアレイを用いた多点共焦点法と計算による背景光除去法を組み合わせることで、センチメートルの幅をもつ3次元的ボリューム内の個々の細胞を蛍光イメージングすることに成功しました。このイメージング法をマウス脳切片(1.5mm厚)に対して適用した例を図3に示します(薬学研究科橋本研究室との共同)。透明化試薬CUBICによって透明化した脳切片を3次元イメージングしました。これにより、冠状断面全域を一視野内で捉えることができました(図3B)。図3Cに示すように、脳切片内全域において3次元的画像を取得できていて、任意の場所の3次元細胞分布を知ることができます。従来の全脳イメージング法と異なり視野のタイリングを必要としないので、全脳イメージングの高速化に繋がることが期待されます。


3:AMATERAS-2による三次元トランススケールイメージング。(A)マウス脳切片試料。1.5mm厚の冠状断面切片を透明化してガラスボトムディッシュに固定した。(B)脳切片の三次元セクショニングによって得られたzレイヤーの蛍光像。(C)破線の領域の三次元表示。xy面、xz面、yz面の画像で構成。

参考文献:
[1] "Exploring rare cellular activity in more than one million cells by a transscale scope,"
Scientific Reports 11, Article number: 16539 (2021).
https://doi.org/10.1038/s41598-021-95930-7

[2] "Cellular logics bringing the symmetry breaking in spiral nucleation revealed by trans-scale imaging,"
bioRxiv (2020).
https://doi.org/10.1101/2020.06.29.176891

[3] "Volumetric trans-scale imaging of massive quantity of heterogeneous cell populations in centimeter-wide tissue and embryo"
bioRxiv (2023).
https://doi.org/10.1101/2023.08.21.553997



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